珊瑚の歴史は古く、紀元前にまでさかのぼると言われています。一例としては、ドイツの旧石器時代(約2万5千年前)の遺跡から見つかっています。
珊瑚は地中海に生育していたため、沿岸に流れついたり、海の中で採取されたりしたものを、宝飾品や祭祀の神具・護符などとして活用していました。また、貨幣替わりにも使われており、広く交易の対象になっていたようです。
ちなみにギリシャ神話では、英雄ペルセウスが怪物メドゥーサを退治し、その首を掲げた時、したたった血が海に落ちて珊瑚となった、という記述があります。
また、ヨーロッパからの交易物はシルクロードを通り、ペルシャ、中国を辿ることとなります。その過程で仏教にも珊瑚が取り入れられ、七宝(仏教において貴重とされる七種類の宝のこと)の一つに数え上げられるようになりました。いずれのエピソードも、いかに珊瑚が古くから人々に親しまれてきた宝石であることがわかりますね。
日本に伝わったのは、8世紀頃と言われています。日本は奈良時代でしたが、伝わるやいなや既に珍重されていました。
前述の通りシルクロードを通ってペルシャ経由で伝わったため、胡渡珊瑚(こわたりさんご。中国語で北西の異民族を胡と呼んでいた)などと呼ばれていたようです。
ただ、地中海に面しており、トッレ・デル・グレーコなど珊瑚の名産地を擁するイタリアでは、乱獲によって珊瑚は既に絶滅に近い状態に陥っていました。後述しますが珊瑚の生育域は限られており、かつ生育スピードも遅いことから、おいそれと代わりがすぐに見つかる、と言った代物ではなかったためです。
しかしながら日本近海でも珊瑚が生育していることが判明しました。そして、明治維新を経た1868年、日本国内での珊瑚漁が始まります。
ただ、地中海域で採れる珊瑚は濃い赤みを帯びていたことに対し、日本産は淡いピンク色のものが目立ちました。日本では赤い珊瑚が貴重とされていたため、日本産の珊瑚を「ボケ」などと呼び、あまり有難がりません。
それに対してヨーロッパの商人たちは、むしろ日本産珊瑚を「エンジェルスキン(天使の肌)」と呼び、その優しいピンクに魅入られます。
ちょうどヨーロッパ産珊瑚が枯渇していたことも併せて、日本は珊瑚を活発に輸出することとなりました。
ただ、日本人はそんなヨーロッパの事情を知りません。それを言いことに外国商人たちは、日本産珊瑚を買い叩いていたようです。ちなみになぜ日本産珊瑚を「ボケ」と呼ぶかには諸説ありますが、この商人たちが「色がぼけてつまらない」などを交渉文句に使ったことにちなむ、なんていう説も存在します。
時代が経た現代、様々な宝石がジュエリー産業で使われています。ダイヤモンドやルビーにサファイヤ、あるいは新種のパライバトルマリンやタンザナイトなど、本当に多種多様のものを楽しめます。
そんな中においても、珊瑚は変わらず貴重な石として重宝されています。
日本宝石協会では珊瑚を3月の誕生石に制定しています。また、ヨーロッパ発の結婚周年祝いの35周年は、珊瑚婚式と呼ばれています。
このように珊瑚は今なお私たちにとって特別な存在と言えるでしょう。
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